10月に入ると保育園の教室の壁に大きなかぼちゃの顔を貼るのが私の仕事でした。子どもたちを集めて、ちょっと得意げに、こう話していたんです。
「ハロウィンはね、秋のおしまいのお祭りなんだよ。このかぼちゃさんが、こわいものを追い返してくれるの」
3歳児クラスは「へえー!」と目を丸くしてくれて、私はすっかり満足していました。
で、去年の10月。娘、4歳。スーパーの入り口に並んだ飾りを指さして、こう言いました。
「ママ、なんでかぼちゃなの?ぶどうじゃだめなの?」
固まりました。いや、教えてた側なんかい。
ハロウィンはなぜかぼちゃ?飾る理由をひとことで
その場でスマホを出すのは負けた気がしたので、あとでこっそり調べ直しました。そして、保育士のときの私が言っていた「こわいものを追い返す」は、方向としては合っていたことがわかりました。合っていたけれど、まったく説明できていなかった、というのが正直なところです。
ひとことでいうと、こうなります。
ハロウィンのかぼちゃは、悪いものを追い返すための「お守りの灯り」です。
ハロウィンの起源は、古代ケルト人のサウィン祭という秋のお祭りだと言われています。彼らの暦では10月31日が一年の終わりの日で、その夜は死者の霊があの世からこちら側に戻ってくると考えられていました。ご先祖さまと一緒に、悪い霊もまぎれて来てしまう。だから顔を彫った灯りを家の前に置いて、「うちには近寄るな」と知らせた──これが、かぼちゃを飾る理由のいちばん芯の部分です。
仮装も同じ発想だと言われています。こわい姿になって「私も同じ側ですよ」と勘違いさせて、悪いものからやり過ごす。魔除けとお守り、その二つがハロウィンの本当の目的に近い部分なんだと思います。なぜ悪いものが来ると考えられたのか、その「こわい」の中身についてはハロウィンが怖いといわれる本当の意味のほうで、子どもへの伝え方とあわせて書きました。今の日本では仮装イベントとして楽しむ日になっていますが、大もとはお盆にちょっと似た、季節の区切りの日だったんですね。
かぼちゃの灯りは「ジャック・オー・ランタン」という名前
あのオレンジ色の灯りには、ちゃんと名前があります。ジャック・オー・ランタン。英語で書くと Jack-o’-lantern で、意味はそのまま「ジャックのランタン」です。
保育士のときの私は、これを「かぼちゃのおばけ」と呼んでいました。まちがいではないけれど、名前を知っていたら、もっと話が広がったのになと今は思います。だってこの名前、ジャックという男の人の物語から来ているんです。

ジャック・オー・ランタンの由来|もとはカブだった起源とジャックのお話
ここがいちばん、子どもに話して食いつきがよかったところなので、少し詳しく紹介します。伝わり方はいくつかあるようですが、だいたい共通しているのはこんな話です。
むかし、アイルランドにジャックという、ずるくてお酒好きな男がいました。ある夜、ジャックは悪魔に出会います。魂を取られそうになった彼は、あの手この手で悪魔をだまし、「自分の魂は取らない」という約束をさせてしまいました。
やがてジャックは死にます。生きているあいだの行いのせいで天国には入れてもらえず、では地獄へ、と思ったら、悪魔が「約束したからお前は受け取れない」と門を閉ざす。天国にも地獄にも行けなくなったジャックは、暗い道をさまよう魂になりました。せめて足元を照らしたくて、悪魔からもらった炭火のかけらをカブの中に入れて、ランタンにした。それを持って、今も歩き続けている──という筋書きです。
つまり、あの灯りの主人公はおばけのかぼちゃではなく、行き場をなくしたジャックその人。細かい部分は語り手によって変わる昔話なので、「こんなお話があるんだって」と伝えるのがちょうどいい距離感かなと思っています。
そして注目したいのが、最初はカブだったという点です。アイルランドやスコットランドでは、身近な野菜だったカブや大きめの根菜をくり抜いてランタンにしていたそうです。私はこれを知ったとき、素直に「カブのままでもかわいかったのに」と思いました。
アメリカでかぼちゃに変わった理由と、世界中に広がった人気
ジャック・オー・ランタンはなぜかぼちゃに変わったのか。理由は、引っ越し先の事情でした。
19世紀、アイルランドから多くの人がアメリカ合衆国へ渡ります。そこで彼らが見つけたのが、秋にごろごろ採れるかぼちゃでした。カブより大きくて手に入りやすく、中身がやわらかいので子どもでも種をかき出せる。おまけに皮がオレンジ色だから、火を入れたときの見え方がうつくしい。「こっちのほうがいいじゃないか」と切り替わって、そのイメージが定着したと言われています。
要は、その土地でいちばん都合のいい野菜が選ばれた、という話なんですよね。決まりごとだったわけではない。ここを知ってから、私はハロウィンという行事がぐっと身近になりました。
その後アメリカで大きなイベントに育ち、世界中に広がって、日本にも渡ってきました。日本では宗教的な意味よりも、仮装とお菓子と飾りを楽しむ秋の風物詩として人気になっています。それも、かぼちゃに変わったときと同じ、その土地なりの育ち方なのかなと思います。
収穫の祭という意味と、かぼちゃを食べる楽しみ
もうひとつ忘れたくないのが、ハロウィンはもともと収穫の祭でもあった、ということです。夏に育てたものを取り入れて、寒い季節に備える。その節目の日でした。
だから、かぼちゃを食べるのはとても理にかなった過ごし方です。わが家は去年、飾りつけと同じ日にかぼちゃのポタージュを作りました。バターで少し炒めてから煮ると甘みが出て、娘が「あまい!」と驚いていたのが、正直いちばんの思い出です。
注意点をひとつ。雑貨屋さんで売っている飾り用のオレンジのかぼちゃは、煮物にする日本のかぼちゃとは種類がちがい、食用ではないものもあります。「飾るもの」と「食べるもの」は分けて考えるのが安心です。

顔を彫ったかぼちゃを飾る楽しみ方|オレンジ色の光と飾る時期
実際にやってみて感じたことを、正直に書きます。生のかぼちゃを彫ったジャック・オー・ランタンは、思っていたよりもちません。わが家では4日目で切り口が白っぽくなり、1週間ほどでしんなりしてきました。長く飾りたいなら、樹脂製のものや、ペーパークラフトのランタンのほうが気楽です。
それでも一度は本物でやってよかったと思っています。中の灯りをつけた瞬間、娘が息をのんで「かわいいのに、ちょっとこわい」と言ったんです。あのオレンジ色は、こわさとあたたかさが同時にある不思議な色でした。
ハロウィンの色の組み合わせについても、子どもによく聞かれます。ざっくり整理すると、こんなイメージで語られることが多いようです。
| 色 | よく語られるイメージ |
|---|---|
| オレンジ | 秋の収穫、かぼちゃ、灯りのあたたかさ |
| 黒 | 夜、闇、この世とあの世の境目 |
| 紫 | 魔法や不思議さを感じさせる色として、飾りに多く使われる |
紫については、はっきりした由来を私は確かめられませんでした。飾りの世界で「不思議さ」を表す色として広く使われている、という説明にとどめておきます。知らないことを断言しないのは、保育士のときに先輩から教わったことのひとつです。
飾る時期は、だいたい10月に入ってから31日まで。ぴったりの決まりはないので、家族の都合のいい週末にはじめれば十分です(今年のハロウィンの日程と、仮装やお菓子の準備の目安はこちらに)。彫るときは大人が包丁を持ち、子どもはスプーンで種をかき出す係。火はろうそくよりLEDライトのほうが安心で、完成したあとに何度でもつけ直して遊べます。
ちなみに、ハロウィンの飾りによく書かれている「Boo!」は、日本語の「わっ!」に近いおどかし言葉です。意味を教えたら、娘は3日間、家中で私に「ぶー!」と言い続けました。
子どもに聞かれたときの短い伝え方
長く話すと、だいたい途中で飽きられます。わが家で通用したのは、これくらいの長さでした。
「ハロウィンは、秋のおしまいのお祭りの日。おばけがまよってこないように、かぼちゃにお顔をつけて、灯りをつけておくの。ジャックっていう人が持っていたランタンのお話から始まったんだって。むかしはカブだったのに、かぼちゃになっちゃったんだよ」
小さい子なら、前半の二文だけで足ります。6歳を過ぎたあたりからは、天国にも地獄にも入れなかったジャックの話をすると、けっこう真剣な顔で聞いてくれます。「かわいそうだね」と言った娘の顔は、忘れられません。
保育士のとき、私はお母さんたちに「行事の由来は、絵本で一緒に読むと入りやすいですよ」と軽く言っていました。今、自分が娘のとなりで秋の絵本を開いて、そこに娘の名前が出てくるページで身を乗り出す姿を見て、ようやくあの言葉の意味が腹に落ちた気がします。うちで開いているのは家族みんなが登場する探し絵本で、おばけのくにのページには、かぼちゃも吸血鬼も魔女も出てきます。ジャックの話をしたあとに開くと、娘はまずかぼちゃを探しにいきました。伝わるのは知識ではなくて、その時間のほうなんですね。
あの頃、ハロウィンについて「かぼちゃさんが守ってくれるの」で済ませていた私に、ちゃんと頭を下げたいです。子どもは「なぜ」と聞きます。ぶどうじゃだめなのかと聞きます。その「なぜ」に答えられなかった夜、調べ直したことが、結果としていちばんの勉強になりました。
だから今、同じように子どもの「なんで?」に固まった経験のあるあなたに、何かを教えるなんておこがましいことはしません。ただ、こう言わせてください。
その場で答えられなくて大丈夫です。「ママも知らないから、あとで一緒に調べよう」は、けっこういい返事だと思っています。うちの娘は、その言い方をされた行事のほうを、なぜかよく覚えています。
お互い、ぼちぼちやりましょう。
今年のわが家のかぼちゃは、たぶんまた口の位置がずれます。それでも娘は「かっこいい」と言ってくれるので、私の合格点は毎年そこです。

よくある質問
- ハロウィンはなぜかぼちゃを飾るのですか?
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悪いものを追い返すための「お守りの灯り」だったと言われています。古代ケルトのサウィン祭では10月31日が一年の終わりの日で、その夜は死者の霊が戻ってくると考えられていました。ご先祖さまと一緒に悪い霊もまぎれて来てしまうため、顔を彫った灯りを家の前に置いて「うちには近寄るな」と知らせた、というのがかぼちゃを飾る理由のいちばん芯の部分です。
- かぼちゃのランタンの名前は何ですか?
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ジャック・オー・ランタンといいます。英語で書くと Jack-o’-lantern で、意味はそのまま「ジャックのランタン」です。「かぼちゃのおばけ」と呼ばれることもありますが、名前の由来はジャックという男の人にまつわる昔話にあります。
- ジャック・オー・ランタンの由来はどんなお話ですか?
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アイルランドに伝わる昔話です。ずるくてお酒好きなジャックという男が悪魔をだまし、「自分の魂は取らない」と約束させます。死後、生前の行いのせいで天国に入れず、悪魔にも「約束したから受け取れない」と地獄の門を閉ざされ、行き場をなくしました。せめて足元を照らそうと、悪魔からもらった炭火のかけらをカブに入れてランタンにし、今も暗い道をさまよっている──という筋書きです。語り手によって細かい部分が変わる昔話なので、「こんなお話があるんだって」と伝えるくらいがちょうどいい距離感です。
- ランタンはもとはカブだったというのは本当ですか?
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アイルランドやスコットランドでは、身近な野菜だったカブや大きめの根菜をくり抜いてランタンにしていたと言われています。19世紀にアイルランドから多くの人がアメリカ合衆国へ渡り、そこで秋にごろごろ採れるかぼちゃを見つけました。カブより大きくて手に入りやすく、中身がやわらかいので子どもでも種をかき出せる。皮がオレンジ色で火を入れたときの見え方もうつくしい。そうした事情から、かぼちゃに切り替わって定着したとされています。
- ハロウィンにかぼちゃを食べてもいいのですか?
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ハロウィンはもともと収穫の祭でもあったので、かぼちゃを食べるのはとても理にかなった過ごし方です。ただし注意点がひとつ。雑貨屋さんで売っている飾り用のオレンジのかぼちゃは、煮物にする日本のかぼちゃとは種類がちがい、食用ではないものもあります。「飾るもの」と「食べるもの」は分けて考えるのが安心です。
- かぼちゃのランタンはいつから飾ればいいですか?
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だいたい10月に入ってから31日までが目安で、ぴったりの決まりはありません。家族の都合のいい週末にはじめれば十分です。ただし生のかぼちゃを彫ったランタンは思っていたよりもたず、4日目で切り口が白っぽくなり、1週間ほどでしんなりしてきました。長く飾りたいなら、樹脂製のものやペーパークラフトのランタンのほうが気楽です。
- ハロウィンの色がオレンジと黒なのはなぜですか?
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オレンジは秋の収穫やかぼちゃ、灯りのあたたかさと、黒は夜や闇、この世とあの世の境目と結びつけて語られることが多いようです。紫もよく使われますが、はっきりした由来は確かめられませんでした。飾りの世界で「不思議さ」を表す色として広く使われている、という説明にとどめています。
- 子どもに「なんでかぼちゃなの?」と聞かれたら、どう答えればいいですか?
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長く話すと途中で飽きられるので、これくらいの長さが目安です。「ハロウィンは、秋のおしまいのお祭りの日。おばけがまよってこないように、かぼちゃにお顔をつけて、灯りをつけておくの。ジャックっていう人が持っていたランタンのお話から始まったんだって。むかしはカブだったのに、かぼちゃになっちゃったんだよ」。小さい子なら前半の二文だけで足ります。6歳を過ぎたあたりからは、天国にも地獄にも入れなかったジャックの話をすると、けっこう真剣な顔で聞いてくれます。





