「ねえ、あのほし、くっついてる」。冬の帰り道、子どもが上を指さして立ち止まることがあります。その先にあるのが、小さな星がきゅっと寄り集まったプレアデス星団、日本では「すばる」と呼ばれる星の集まりです。
見た目はひとかたまりのぼんやりした光。けれど目を慣らすと、6つ、7つと粒が分かれてきます。ギリシャ神話では狩人オリオンに追われた七人姉妹とされ、日本では千年前の枕草子にも名前が出てくる、とても古くから親しまれてきた天体です。
この記事では、まず親子で読み聞かせできる神話の物語を置き、そのあとで「今夜どこを見ればいいのか」という見つけ方の手順、そして家でできる星かぞえの遊びまでをつなげていきます。寒い夜に外へ出るのは5分でも十分。物語を知ってから見上げると、同じ星がまるで違って見えてきます。
七人姉妹が夜空へ逃げた夜|プレアデス星団の神話を読み聞かせ
狩人オリオンに追われた七姉妹のギリシャ神話
むかしむかし、空よりも高いところに、七人の姉妹が住んでいました。姉妹の父は、天の重さを肩にのせていた巨人アトラス。母はプレイオネといいます。
ある日、森でいちばん腕のいい狩人オリオンが、木々のあいだを歩く姉妹の姿を見かけました。オリオンは姉妹を追いかけ始めます。一日追いかけ、一年追いかけ、何年も追いかけ続けました。
森はどこまでも暗く、どの道を選んでも足音は近づいてきます。息を切らした姉妹は、手をつないだまま立ちどまり、空に向かって助けを呼びました。
その小さな声を、雲の上にいた大神ゼウスが聞きつけます。ゼウスは姉妹を鳩の姿に変えて空へ逃がし、やがて星にしたと語り伝えられています。

いまも冬の夜空では、オリオン座がすばるを追いかけるように、少しうしろから昇ってきます。追う者と追われる者が、いつまでも同じ距離のまま空をめぐる。そんな配置になっているのが、この神話のいちばん不思議なところです。
ギリシャ神話には、女神アルテミスが姉妹を守ったとする伝え方など、いくつもの異なる伝承が残っています。どれかひとつが正しい「本当の話」というわけではありません。子どもに話すときも「こういうお話もあるんだって」と添えると、物語の幅がそのまま残ります。
姉妹の名前と、ひとつだけ淡く輝く星の言い伝え
七人の名は、アルキオネ、マイア、エレクトラ、タユゲタ、ステロペ、ケラエノ、メロペ。プレアデス星団の明るい星々には、この姉妹の名と両親の名がつけられています。
そして昔から、「七人いるはずなのに、ひとり姿が見えにくい」という言い伝えが各地にあります。姿を隠した姉妹が誰なのかも、伝承によってちがいます。「見えなくなったお姉さんは、今夜どこにいるのかな」と声をかけて、親子でその一人を探しに出てみてください。この「見えないひとり」の話は、あとで出てくる星かぞえの遊びにそのままつながっていきます。
子どもに読むときの、声と間のつくり方
読み聞かせのコツは、追いかける場面で少し速く、空へ逃げる場面でゆっくり。そして「そして姉妹は、星になりました」のあとに、三秒だけ黙ります。その沈黙のあいだに、子どもは自分で空を想像します。外で話すなら、語り終わってから実物を指さす順番が効きます。
「すばる」という日本の別名と、昴の字にこめられた願い
ひとつに集まるという語源から生まれた呼び名
「すばる」は日本語の古い言葉で、ばらばらのものがひとつにまとまる、という意味の「統(す)ばる」が語源とされています。小さな星が集まってひと粒に見えるようすを、そのまま名前にしたわけです。
漢字の「昴」は中国で使われていた星の名から来ています。日本各地には「六連星(むつらぼし)」という呼び方も残っていて、これは肉眼で6個ほど見えることに由来するとされています。神話は七人、昔の日本人が数えたのは六つ。この数のずれが、昔からずっと人の興味を引いてきました。
枕草子に登場する「星はすばる」の一節
平安時代、清少納言は枕草子で「星はすばる」と書き出しました。数ある星のなかで、まっ先にこの小さな集まりを挙げているのです。千年前の人も、同じ冬の空を見上げて同じ星をきれいだと思っていた。そう子どもに伝えると、たいてい「えっ、せんねん前!」と驚きます。
すばる・スバル・プレアデス・M45、関連する呼び名の広がり
| 呼び名 | 由来・使われる場面 |
|---|---|
| すばる/昴 | 日本の古い呼び名。統ばる(集まる)が語源とされる |
| 六連星 | 肉眼で6個ほど見えることからついた日本の地方名 |
| プレアデス星団 | ギリシャ神話の七姉妹の名から。天文の場で広く使われる |
| M45 | 18世紀のメシエカタログの45番という天体の整理番号 |
自動車メーカーのSUBARUのマークに六つの星が描かれているのも、この星の集まりが元になっています。見上げる前に車のエンブレムを見せておくと、子どもの記憶に引っかかりやすくなります。
星座ではなく散開星団|すばるの正体に近づく
同じころに生まれた若い恒星が寄り添う散開星団
あの七人の姉妹は、本当は何人きょうだいだったのでしょう。物語の続きを確かめるように、今度は宇宙の側から同じ星を眺めてみます。
まず押さえておきたいのが、すばるは星座ではない、ということ。散開星団と呼ばれる、同じガスの雲から同じころに生まれた恒星のきょうだい集団です。
地球からの距離はおよそ440光年(観測の方法によって430〜444光年ほどの幅があるとされ、数値は研究が進むたびに更新されていきます)。年齢は研究によって幅があり、6000万年から1億6000万年ほどといわれていますが、約46億年を生きてきた太陽と比べればまだ生まれたばかりの若い星々であることは間違いないようです。星団を構成する恒星は百数十個から数百個規模とされ、見えている6個や7個どころではありません。神話の人数と星の数は、別の話として並べてあげてください。
おうし座の中にある位置と、関連する冬の星座
すばるの位置はおうし座の背中のあたり。88個ある星座のひとつであるおうし座の一部です。近くにはオレンジ色の1等星アルデバラン、少し離れてオリオン座。すばるは黄道の近くにあるため、月や木星がすぐそばを通り過ぎる日もあり、その夜はとくに見つけやすくなります。
天体写真の青い星雲が、目では見えない理由
検索すると出てくる、青いベールに包まれた美しい画像。あれは天体写真を長い時間かけて光を蓄積して撮ったものです。星の光を反射している星雲が写っているのですが、肉眼や普通の双眼鏡で同じ青色が見えることはありません。

目で見えるのは、白く小さな星の粒。期待値を先に正直に伝えておくと、「写真とちがう」というがっかりを避けられます。むしろ「写真の青は、カメラだけが見られる色なんだよ」と言うと、子どもは科学のほうに興味を持ちます。
すばるが輝くのはいつ?冬の夜空での位置と時間の目安
見やすい季節と、夜空のどのあたりに昇るか
すばるは秋の終わりから冬にかけてが見ごろです。目安として、11月ごろは夜20時すぎに東の空、12月から1月にかけては同じくらいの時刻に南東から南の空の高いところに見えることが多いようです。2月には夜の早い時間からすでに高く昇り、夜半には西へ傾いていくといわれています。ただし見える方角や高さは、観測する場所や時刻によって多少前後するようです。
小さな子どもと見るなら、19時から21時のあいだに外に出られる12月・1月がいちばん現実的。10分で切り上げられる計画にしておくのがコツです。
オリオン座の三つ星からたどる見つけ方3ステップ
すばるの見つけ方は、冬のいちばん目立つ星の並びから逆算すると迷いません。
- ステップ1/オリオン座の、縦にきれいに並んだ三つ星を見つける。冬の夜空でもっとも見つけやすい目印です。「あそこに、まっすぐ三つ並んでる星があるでしょう。あれが狩人オリオンのベルトだよ」
- ステップ2/三つ星の並びを、そのまま斜め上(北西の方向)へ延ばす。最初にぶつかるオレンジ色の明るい星がアルデバランです。「ベルトの線を、指でそのまま伸ばしてごらん。オレンジ色の星に当たったかな」
- ステップ3/同じ方向にもう一度、アルデバランまでと同じくらいの距離を進む。小さな柄杓のような形にぼんやり集まった光、それがプレアデス星団です。「もう一回おなじだけ進むよ。ほら、姉妹が集まってる」
子どもには「オリオンさんが追いかけている先を見てごらん」と言うだけで、視線がすっと動きます。神話が、そのまま道案内になります。
街明かりと月明かりをかわす観測の工夫
失敗しやすいのは、明るい場所から出てすぐ空を見上げること。目が暗さに慣れるまで、最低でも5分から10分はかかります。街灯や自販機を背にして、建物の影に立つだけでも見え方が変わります。
もうひとつは月。満月前後は空全体が明るく、暗い星が埋もれてしまいます。新月に近い日を選ぶと、見える星の数がはっきり増えます。そして防寒。手袋と帽子がないと、子どもは星より先に寒さに負けます。
肉眼でいくつ数えられる?親子の星かぞえワーク
まず6つ、条件がよければもっと見えるという体験
いよいよ本番。「すばるの星、いくつ見える?」と聞いてみてください。
街なかなら3〜4個、条件がよければ6個、空の暗い場所で目が慣れれば10個以上見えることもあります。見つめようとすると消えてしまう星は、視線をほんの少しずらす「そらし目」で浮かび上がってきます。これは目の構造上、視野の中心より周辺のほうが暗い光に敏感なためです。
ちなみに、6等星まで数えると全天の恒星はおよそ8600個とされますが、実際にひと晩に一度に見渡せるのはそのうちの一部。都会ではさらに減ります。だからこそ「今日のうちの家からは何個」という記録に意味が出てきます。
見えた星を紙に描く「わが家のすばるマップ」
黒い画用紙と白いペン、または丸いシールを用意します。外で数えた数だけ、帰ってから貼る。その横に日付、時刻、場所、月が出ていたかどうかを書き添えます。

これを月に一度続けると、同じ家から見ても夜によって数が変わることが目に見えてきます。記録が残るというだけで、観察は遊びから小さな研究に変わります。
双眼鏡でのぞいた瞬間、星の数が増える驚き
もし家に双眼鏡があれば、ぜひ一度向けてみてください。7倍から10倍くらいの、ごく普通のものでかまいません。視野いっぱいに星の粒が散らばり、数えきれないほどに増えます。
すばるは広がりが大きいため、倍率の高い望遠鏡より双眼鏡のほうが全体の美しさを味わえる天体です。ぐらつくときは、寝転がって肘を地面につけるか、フェンスに腕を預けると像が安定します。
子どもの「なんで?」に寄り添う小さな天体の話
星の総数と、肉眼で見える数がちがうわけ
「ぜんぶで何個あるの?」と聞かれたら。プレアデス星団に属する星は百数十個から数百個規模と考えられていますが、そのうち肉眼で届く明るさを持つものはごくわずか。暗い星は、光が弱すぎて目に届ききらないのです。
「小さい声でしゃべってる子は、遠くにいると聞こえないでしょ。星の明るさも同じなんだよ」。この言い方だと、3歳でもなんとなく腑に落ちます。
神話の七人と、実際に見える星を混同しない伝え方
ここは大人が気をつけたいところ。七姉妹の物語は人が作った文化の話で、星が何個あるかは宇宙の事実の話です。「昔の人は七人のお姉さんだと思ったんだって。本当はもっとたくさんあるんだよ」と、二つを並べて置く。どちらも消さないのが、いちばん豊かな伝え方だと思っています。
星の名前は誰が決めているの?という問い
星の名前の多くは古代から各地で呼ばれてきたものですが、現在は国際天文学連合(IAU)が恒星の固有名や88の星座の区切りを公式に定めています。すばるの明るい星に姉妹の名が並ぶのも、長い時間をかけて受け継がれた呼び名が整理された結果です。「名前って、みんなで決めるんだね」という返事が返ってきたら、それでじゅうぶん。
見上げた夜を親子の記憶に|次はオリオン座の物語へ
帰り道に交わしたい、感じたことを言葉にする会話
家に向かいながら、「どんな感じだった?」と一言。きれいだった、ちいさかった、さむかった。どんな答えでもかまいません。感じたことを言葉にした瞬間、その夜は記憶として定着します。

そして「あの光は400年くらい前に星から出発して、今日きみの目に届いたんだよ」と付け加えてみてください。時間の話は、子どもの想像力がいちばん伸びる種です。
冬の星空めぐりの次の一歩と、国立天文台の資料
すばるを見つけられたら、次はその追いかけ役であるオリオン座へ。三つ星と冬の大三角、そしてオリオン自身の神話まで知ると、冬の夜空がひとつながりの物語になります。当ブログのオリオン座の神話の記事、冬の星座一覧の記事と合わせて読むと、今夜の空がそのまま続きになります。
もう少し正確な科学情報を確かめたいときは、国立天文台が公開しているプレアデス星団の資料が信頼できます。観測画像や距離の最新値も確認できるので、子どもの質問に答えきれなかった日の味方になります。
今夜見上げた空の記憶は、それだけでもう、じゅうぶんな宝物です。
星の物語は、子どもの名前を添えると一気に「自分の話」になります。こうした物語をもっと味わいたいご家庭には、名前入りの絵本という選び方もあります。今夜の空の記憶と一緒に、本棚にも物語を。
よくある質問
- 「すばる」という名前の由来は何ですか?
-
すばるは日本語の古い言葉で、ばらばらのものがひとつにまとまるという意味の「統(す)ばる」が語源とされています。小さな星が集まってひと粒に見えるようすを、そのまま名前にしたと考えられています。
- 肉眼で見える星の数はいくつですか?
-
街なかなら3〜4個、条件がよければ6個、空の暗い場所で目が慣れれば10個以上見えることもあります。日本では昔から肉眼で6個ほど見えることから「六連星(むつらぼし)」とも呼ばれてきました。
- プレアデス星団の星の総数はいくつですか?
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プレアデス星団を構成する恒星は百数十個から数百個規模とされており、肉眼で見える6個や7個どころではありません。ただし暗い星は光が弱すぎて目に届ききらないため、実際に見える数はごく一部です。
- プレアデス星団にはどんな神話がありますか?
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ギリシャ神話では、狩人オリオンに追われた七人姉妹が大神ゼウスによって鳩の姿に変えられ、空へ逃がされて星になったと伝えられています。姉妹の名はアルキオネ、マイア、エレクトラ、タユゲタ、ステロペ、ケラエノ、メロペで、星団の明るい星々にはこの名がつけられています。
- プレアデス星団(すばる)はどこにありますか?
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すばるの位置はおうし座の背中のあたりで、88個ある星座のひとつであるおうし座の一部という扱いになります。近くにはオレンジ色の1等星アルデバランがあり、オリオン座の三つ星から斜め上にたどると見つけやすくなっています。
- すばるは星座ですか?
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すばるは星座ではなく、同じガスの雲から同じころに生まれた恒星のきょうだい集団である「散開星団」です。地球からの距離はおよそ400光年、年齢は数千万年から1億年ほどと考えられています。
- すばる(プレアデス星団)の見つけ方を教えてください。
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まず冬の夜空で目立つオリオン座の縦に並んだ三つ星を見つけ、その並びを斜め上(北西方向)へ延ばすと最初にオレンジ色の星アルデバランに当たります。同じ方向にもう一度同じくらいの距離を進むと、小さな柄杓のような形にぼんやり集まった光としてプレアデス星団が見つかります。
- 天体写真に写る青い星雲は肉眼でも見えますか?
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検索すると出てくる青いベールに包まれた画像は、長時間露光で光を蓄積して撮影したもので、肉眼や普通の双眼鏡で同じ青色が見えることはありません。実際に目で見えるのは、白く小さな星の粒だけです。










