子どもの笑顔があふれる特別な瞬間。「お友だちができた!」と嬉しそうに話すわが子。
でも、その相手が 目に見えない“想像上のお友だち” だと知ったら、親としては少し不思議な気持ちになるかもしれません。
実は、こうした“イマジナリーフレンド”は子どもの発達心理学の観点からも 自然な現象 であり、子どもの心を豊かに育む大切な存在です。想像上のお友だちは、子どもの心を豊かに育みます。不安や寂しさを和らげ、創造性を育て、コミュニケーション力を高めてくれると言われています。
この記事では、イマジナリーフレンドが子どもに与える効果や、なぜ子どもがイマジナリーフレンドを必要とするのか、想像の世界をどう受け止め、どう育んでいくべきか。子どもの自己肯定感を育む大切なイマジナリーフレンドとお子さまと親が上手に付き合うポイントをわかりやすく解説します。
イマジナリーフレンドの基本知識
イマジナリーフレンドとは?定義と特徴
イマジナリーフレンド(Imaginary Friend)は、子どもが心の中で作り上げる目に見えない存在であり、子どもの成長過程で自然に現れる心理現象として知られています。
- ぬいぐるみや人形の姿を借りる場合もあれば、動物や架空の生き物、実在しない人間の友だちとして登場することも。
- 心の支えとなり、不安や喜びを共有する“相棒”のような役割を果たします。
順天堂大学の研究によれば、イマジナリーフレンドは子どもの適応力を支える役割を果たし、自己理解を深めることが示されています。
なかでも、動物やぬいぐるみの心理的効果は特に注目され、子どもにとって心の支えとなり、喜びや不安を共有できる大切な存在となります。

いつから現れて、どのくらい続くの?
- 多くは2〜7歳の時期に見られ、小学校中学年頃までに自然に消えていくケースが一般的。
- 兄弟姉妹の有無にかかわらず、一定数の子どもがイマジナリーフレンドを持つ とされています。
- 個人差が大きく、長く続く場合もありますが、大半は成長に伴いフェードアウトしていきます。
イマジナリーフレンドは、子どもの成長過程においてよく見られる、ごく自然な現象とされています。特に幼稚園や保育園の年中から年長にかけて、想像力が一層豊かになる時期に多く見られ、創造的な表現や感情表現の一つと捉えることができます。この時期は、自己と他者を区別する認識が育ち始め、社会性が発達する上でも大切な段階です。
なぜ子どもは想像上の友達を作るの?
子どもがイマジナリーフレンドを生み出す理由は様々。
- 新しい環境への適応
- 寂しさの解消
- 感情表現の練習
- 自己理解・自己肯定感を育むため
イマジナリーフレンドの存在は、現実世界では言葉にしづらい感情や考えを安全に表現できる場を提供します。中でも、ぬいぐるみを介した交流は、子どもの心に寄り添い、自己理解や感情表現を後押しする大切な役割を果たします。
また、これは兄弟姉妹の有無にかかわらず見られる現象であることが研究で明らかになっています。たとえきょうだいがいても、一人っ子であっても、子どもは**「自分だけの特別な友だち」を求める**ことで、想像上の存在を生み出すのです。
さらに、ドラえもんやトトロのように子どもがなじみやすいキャラクターも、安心感や心の支えとして“想像上の友人”になりやすいといわれています。実際、発達心理学の研究からは、イマジナリーフレンドは自己肯定感の向上や不安の軽減にも有効であることが示唆されています。
イマジナリーフレンドが子どもに与える4つの効果
イマジナリーフレンドは、子どもの心の成長において重要な役割を果たす特別な存在です。心理学研究によると、想像上の友達を持つ子どもたちには、さまざまなポジティブな効果が見られることが分かっています。
感情コントロール力の向上
子どもは空想上の友だちに 不安や怒り、悲しみなどを打ち明ける ことで、自分の感情を整理しやすくなります。
- 研究では、イマジナリーフレンドがいる子どもほど ストレスへの対処が上手 といった報告も。
- 自分の気持ちを言葉にし、相手が受け止めてくれる体験が、情緒の安定 に大きく貢献します。
日本教育心理学会の研究によると、イマジナリーフレンドとの関わりを通じて、子どもは自己制御能力を高め、情緒の安定性を獲得していくことが示されています。また別の研究では、イマジナリーフレンドがいる子どもは、ストレスへの対処が上手であることが報告されています。
創造性と想像力の発達
イマジナリーフレンドとの冒険や会話を通じて、子どもは 新しいアイデアを生み出す力や問題解決能力 を培います。
- 芸術的感性や想像的思考の土台となる可能性も。
- 大人になってからの発想力にも影響を与えることが、一部の認知科学の実験から示唆されています。
想像上の友達との豊かな交流は、子どもの創造性を大きく育みます。空想の世界で展開される様々な物語や冒険を通じて、子どもは新しいアイデアを生み出す力や、問題解決能力を伸ばしていきます。
芸術的感性や創造的思考の土台となる可能性があるとにおいては、2022年に開催された『サイエンスアゴラ』による、「認知科学×想像力=大人版イマジナリーフレンド」という企画が行われました。この企画では、右脳(本能)と左脳(論理)の振り子型思考「ブレンドマインド」を活用することで、新たな問いや思考の癖を発見し、創造性の育成に寄与する可能性が示唆されました。
また、東京デザインプレックス研究所の「フューチャーデザインラボ」においても、イマジナリーフレンドが認知科学の観点から発想力を高める存在として注目されています。
これらの研究や取り組みを通じて、イマジナリーフレンドとの関わりが、思考の柔軟性を養い、創造的な発想を促す要素として重要である可能性が示されています。
うちの子だけがイマジナリーフレンドを持っているのでは?」と不安に思う親は少なくありません。しかし、発達心理学の研究では、3〜7歳の子どもの約40%が何らかの形でイマジナリーフレンドを持つことが確認されています。

コミュニケーション能力の成長
イマジナリーフレンドとの会話は、実際の対人関係でのコミュニケーションスキルの向上にも繋がり、相手の立場に立って考える力や、自分の気持ちを適切に表現する能力が自然と身についていきます。
この効果は、子どもの笑顔とともに、幼稚園や保育園での友達との関わりにも良い影響を与えることが、多くの保育現場で確認されています。
自己肯定感の育成
無条件で受け入れてくれるイマジナリーフレンドとの交流は、子どもに 「自分は大切な存在だ」という感覚 をもたらします。子どもの心の中に安全な居場所を作り出し、無条件に受け入れてくれる存在との関わりを通じて、自己肯定感が自然と育まれていきます。
ぬいぐるみを通じた自己表現
ぬいぐるみの心理的役割は子どもの成長に重要な意味を持ちます。多くの子どもたちは、自身の大好きな動物や、お気に入りのぬいぐるみをイマジナリーフレンドとして選びます。これは動物が持つ素直な感情表現や、人間に近い仕草を想像しやすいという特徴があるためです。
- ぬいぐるみは 触れる実体があるぶん、感情を投影しやすい のが特徴。
- 夜、ぬいぐるみを抱いて寝る習慣は、子どもの 安心感 を高めると同時に、感情表現の練習 にもなります。
「もう一人の自分」との対話効果
イマジナリーフレンドは時として、子どもの理想の自分や、なりたい自分を投影した存在となります。この「もう一人の自分」との対話を通じて、子どもは自己理解を深め、健全な自己イメージを形成していきます。
子どものイマジナリーフレンドと上手に関わるには
イマジナリーフレンドと触れ合う時間は、子どもにとってかけがえのない心の成長の機会です。想像上の存在との関わりを通じて、子どもは自分の感情を理解し、他者との関係性を学んでいきます。
想像の世界を大切にする接し方
もし、あなたの子どもがイマジナリーフレンドについて話し始めたら、まずは否定しないこと が大切。
- 興味を示し、「どんな子なの?」「どこから来たの?」など、共感的な質問 で会話を盛り上げましょう。
- 想像上の友達についての質問には、真摯に答える
- 大人の価値観を押しつけず、子どもの作り上げた世界観を尊重 する姿勢がポイントです。
2022年の東京学芸大学の研究では、イマジナリーフレンドが子どもにとって励ましの存在となり、相談相手になっていることが面接調査を通じて確認されています。
また、発達心理学の研究によれば、イマジナリーフレンドを持つことは子どもの創造力や社会性の発達を促す可能性があると示唆されています。さらに、幼児期のイマジナリーフレンドは自己内対話を促進し、内面的な発達にも寄与することが明らかになっています。
ぬいぐるみを活用した遊び方

ぬいぐるみの心理面での効果は広く認められています。多くの子どもたちは、ぬいぐるみを通じてイマジナリーフレンドを具現化します。ぬいぐるみは安心感を与える存在であると同時に、想像力を育む重要なツールとなります。
親子で楽しむ想像遊びのアイデア
- お気に入りのぬいぐるみと一緒にお茶会を開く
- ぬいぐるみを主人公にした物語作り
- 寝る前の読み聞かせでは、ぬいぐるみを抱いて寝る準備をしながら楽しむ
▼保育園でのエピソード:イマジナリーフレンドと“バス”作り
ある保育園では、子どもたちが「イマジナリーフレンドが乗るバス」を工作するという遊びを楽しんでいました。画用紙や牛乳パックなどで思い思いに作った小さなバスに、各自の“目に見えない友だち”が乗り込む設定です。
先生「きみのイマジナリーフレンドはどんな子なの?」
子ども1「ぼくのトラさんは、南の島が好きなんだよ。いっぱいパイナップルがあるから!」
子ども2「うちはクマさんといっしょに海の中まで冒険したいの!」
子どもたちは自分のイマジナリーフレンドの好みに合わせて行き先を決め、思いがけない発想で盛り上がっていました。先生が「へえ、面白いね!」と受け止めることで、子どもたちはさらにイキイキと空想をふくらませていきます。
こうした遊びを通じて、子どもは社会性を学び、適度な距離感で関わることで、より豊かな想像の世界が広がっていきます。
親子でやってみる場合も、身近な素材を使って乗り物を工作し、「今日はどこに行く?」と尋ねるだけで、子どもはいろんなイマジナリーフレンドや世界観を語り出すかもしれません。
子どもの気持ちに寄り添うコツ
子どもが不安や心配事をイマジナリーフレンドに打ち明けるとき、それは親へのSOSサインかもしれません。
- 「そんなのありえない」と否定せず、「そうなんだね、教えてくれてありがとう」 という受容的な態度を心がける。
- 子どもの言葉の裏にある 感情や要求 を汲み取り、安心して話せる雰囲気を作ることが大切です。
- 子どもが安心して想像の世界を探索できる環境づくりを心がける
▼親子の会話例:イマジナリーフレンドに励まされるシーン
5歳のAちゃんは、夜寝る前になるとお気に入りのうさぎのぬいぐるみに話しかけます。
Aちゃん「うさぎさん、きょうお友だちとケンカしちゃってごめんねって言えなかったんだ…明日、どうしよう?」
ママ「うさぎさんはなんて言ってるの?」
Aちゃん「『明日あやまればきっと仲直りできるよ』って!」
ママ「そうだね。うさぎさんもAちゃんも、ちゃんと勇気が出るようにママも応援するよ。うまくいきそう?」
Aちゃん「うん! がんばる! ありがとう、うさぎさん!」
こうしてイマジナリーフレンド(ぬいぐるみ)を通じて、自分の不安や迷いを整理できる子どもの姿が見られます。親が「否定しない」姿勢を心がけるだけで、子どもの気持ちが受け止められ、イマジナリーフレンドの役割もより発揮されるでしょう。
子どもの心の世界に寄り添うことで、親子の信頼関係はより深まり、子どもの健全な心の発達を支えることができます。
イマジナリーフレンドと一緒の素敵な思い出作り
イマジナリーフレンドとの思い出作りは、子どもの心に深く刻まれる大切な経験となります。想像上のお友だちと過ごす特別な時間は、子どもの心の成長を支える温かな土壌となっていくのです。
物語の中での冒険遊び
- 『ぐりとぐら』や『どうぞのいす』、『ドラえもん』などの物語に登場するキャラクターと一緒に ごっこ遊び をすれば、想像力がさらに豊かになります。
- お気に入りのぬいぐるみを抱いて寝る前の 20分間の読み聞かせ で、イマジナリーフレンドと共に絵本の世界を楽しむのも◎。

お気に入りのぬいぐるみを抱きしめながら、お布団の中で絵本を読む時間。ぬいぐるみを抱いて寝る準備をしながら過ごすその瞬間こそが、想像力を育む最高の機会です。
絵本や童話の世界は、イマジナリーフレンドとの冒険にぴったりの舞台となります。想像上のお友だちと一緒に物語の世界へ飛び込んでいく体験は、かけがえのない思い出となります。イマジナリーフレンドと一緒に絵本の冒険を楽しむことで、子どもは豊かな想像力と共感性を培っていきます。
想像力を育む日常の関わり方
日常生活の中にも、イマジナリーフレンドとの素敵な思い出作りのチャンスが満ちています。お散歩中に見つけた小さな発見を一緒に喜んだり、お絵かきの時間に想像上のお友だちの姿を描いたり。何気ない毎日の出来事が、イマジナリーフレンドと共に過ごす特別な思い出として心に刻まれていきます。
お片付けや食事の時間も、イマジナリーフレンドと一緒なら楽しい活動に変わります。「お人形さんも一緒にお片付けするよ」「うさぎさんも野菜を食べるんだね」という声かけを通じて、日常の習慣が自然と身についていく様子は、子育ての醍醐味のひとつです。
こどもちゃれんじなどの教材では、ぬいぐるみ(しまじろう)を通じたロールプレイが積極的に取り入れられています。このような教材を活用することで、親子での想像遊びの機会を増やし、子どもの社会性やコミュニケーション能力を高めることができます。
子どもの心の成長を見守るヒント
イマジナリーフレンドは、子どもの 「もう一人の大切な存在」 です。そこには、不安や葛藤、喜びを共有できる あたたかな関係 が広がっています。親がその世界を尊重してあげることで、子どもは 豊かな想像力や自己肯定感 を育んでいきます。
時には心配事をイマジナリーフレンドに打ち明け、時には楽しい冒険を共有する。そんな豊かな心の交流を、温かく見守ることが大切です。子どもが安心して想像の世界を探検できる環境づくりこそが、健やかな心の成長を支える基盤となっていくのです。
「もし、わが子が不思議な友だちの話をしてきたら——」
ぜひ、一緒に冒険の世界に飛び込んでみませんか? それは、子どもの心を理解し、成長を見守るかけがえのないチャンスとなるでしょう。
参考文献・出典
東京学芸大学の研究
山岸 明子. 「イマジナリー・コンパニオン(IC)の持つ心理的役割の検討」
『東京学芸大学紀要(心理学研究)』第60巻, 2022年.
幼児期のイマジナリーフレンドに関する研究
科学研究費助成事業(科研費)「子どもの空想遊びの心理学的研究」
『イマジナリーフレンドと』
ミシェル・クエヴァス (著), 杉田 七重 (翻訳). 『イマジナリーフレンドと(児童単行本)』小学館, 2019年.
JST(科学技術振興機構)サイエンスアゴラ 2022
サイエンスアゴラ 2022「認知科学×想像力=大人版イマジナリーフレンド」
発達心理学におけるイマジナリーフレンドの影響
京都大学「こころの未来研究センター」研究報告書
子どもにとって「想像上の仲間」がもつ発達心理学的意義
山岸 明子. 「子どもにとって『想像上の仲間』がもつ発達心理学的意義」
『順天堂保健看護研究』第5巻, 2017年, pp. 41-52.
青年期における「想像上の仲間」に関する一考察
山口 智. 「青年期における『想像上の仲間』に関する一考察」『京都大学大学院教育学研究科紀要』第53号, 2007年, pp. 111-120.
イマジナリーフレンド #子どもの成長 #想像力 #発達心理学 #ぬいぐるみ #自己肯定感 #コミュニケーション力 #親子関係 #育児 #STELLA LAB